Lê Mai の作業台には二種類の型がある。木の型と、シリコンの型。同じバッチからでも、型が違えば二つの違う石けんになる。この文章は、その違いと理由を記録する。
二つの型、一つのバッチ
木の型はオークか松の板でできていて、内寸は幅8cm、長さ30cm、深さ8cm。バッチごとにクッキングシートを敷く。乾いた状態を保てば、一つの型が10年もつ。
シリコンの型は柔らかく、一体成形で、寸法はほぼ同じ。紙を敷く必要はない。一度買えば、裂けるまで2〜3年もつ。
同じコールドプロセスの石けん生地を両方の型に流すと、24時間後にはどちらも同じ大きさ、同じ重さ、同じpHで型から出る。だが、手に持つと感触が違う。
木は呼吸し、シリコンは閉じ込める
木には天然の多孔質構造がある。鹸化が進む24時間のあいだ、水蒸気と反応熱は型の壁から少しずつ抜けていく。木の型の中の温度はゆるやかに上がり、むらなく保たれる。
シリコンは完全に密閉する。蒸気も熱も中にこもる。ジェル化の段階で、シリコン型の中心温度は70〜80°Cに達し、その後急に冷める。
結果、木の型の石けんは結晶構造がより均一になる。シリコンの石けんには中央にはっきりとジェルの帯が現れ、外側の縁は完全にはジェル化しないこともある。
縁 · 跡と艶
木の型は、石けんの側面にかすかな木目を残す。石けんが敷き紙に触れた縁には、白い線が出ることがある。縁は完全にはまっすぐではない。
シリコンの型は、わずかに艶のあるなめらかな縁をつくる。アルミで鋳造したかのように均一だ。素材の跡も木目もない。四つの面が同じに見える。
シリコンの面を美しいと思う人もいる。木の面のほうが本物だと感じる人もいる。ここが分かれ道。Lê Mai は木のほうへ向かう。
手の中の感触
木の型の石けんを持つと、指は一度にいくつもの面に触れる。なめらかな面、かすかな木目のある面、白い線のある面。手がその違いを読む。
シリコンの石けんを持つと、四つの面はどれも同じ感触だ。なめらか。均一。乾いている。
小さな違い。測れるものではなく、言葉にもしにくい。けれど手は知っている。テーブルに置くと、木の型の石けんのほうが安定する。底が完全には平らでないからだ。わずかな不安定さが、安定になる。
なぜ不揃いなのか
石けんは大量生産品ではない。特定の日の、特定のオイルでつくった、特定のバッチである。
木の型はそれを記録する。型の跡、木目、不揃いさ。そのすべてが、あるバッチの痕跡だ。処方がまったく同じでも、別々のバッチの二つの石けんは違う跡をもつことがある。
シリコンの型はそれを消す。シリコン型の石けんは、バッチも日もオイルも関係なく、どれも同じに見える。
Lê Mai は痕跡を残すことを選ぶ。石けんは完璧である必要はない。そのバッチから生まれた、それ自身であればいい。
木の型。跡。木目。不揃い。
選んだこと。偶然ではない。