ラブダナム樹脂の暗い塊、ラオス産のベンゾインのかけら、油で艶めく焦げ茶色のバニラのさや。琥珀の石ではなく、この三つが香水のアンバーノートの源である。本稿では一つの名をめぐる混同を解き、バニラ、バルサム系の樹脂、少しのオレンジの果皮でアンバーのブレンドを組む。
源ではない石
琥珀は樹脂の化石で、なかには数億年を経たものもある。蜂蜜色で、ときに虫を丸ごと閉じこめている。こすったり燃やしたりすると、松に似た軽い匂いがする。しかし香水の世界で、その石はほとんど何の役も果たさない。
調香のフランス語で、ambre という言葉はアコードを指す。琥珀の石でも、フランス語で ambre gris と呼ぶアンバーグリスでもない。古典的なアンブレのアコードは、ラブダナム、バニラまたはバニリン、そしてベンゾイン。似た三つの言葉が、まったく違う三つのものを指す。
フランス調香師協会 SFP の分類で、アンバー系統はコード F をもち、六つのサブファミリーからなる。SFP はこれを、甘く、パウダリーで、バニラ調、ラブダナム調、アニマリックなノートがとても強く出たものとして説明する。表の中で最も温かく、最も密度の高い系統である。
石とアコードの混同は、わかりやすい。ラブダナム、ベンゾイン、濃縮したバニラの蜂蜜色は、石の色に近い。しかしアコードの匂いは、生きた木の樹脂から来る。石になった樹脂からではない。
ラブダナム、ベンゾイン、バニラ
低木 Cistus ladanifer は地中海のまわりに育ち、その葉は粘りのある芳香性の樹脂を分泌する。樹脂は乾いた葉をすいて集めるか、生の葉を水で煮て集め、そのあと溶剤で抽出する。主な産地はスペイン。ラブダナムはレザーのファセットをもつ温かな樹脂の香りを与え、アンバーのアコードの軸になる。
ベンゾインは Styrax の木の乾いた樹脂である。商業的には二つの流れがある。スマトラベンゾインとシャムベンゾイン。後者は Styrax tonkinensis から採れ、多くはラオスのルアンパバーン地方産だ。蒸留という意味でのベンゾイン精油は存在しない。流通する素材は樹脂の抽出物で、粘る固体であり、使えるようにふつう溶剤で50%に希釈される。香りは甘く、樹脂的で、バニラに近い。
バニラは Vanilla 属のランのさやで、キリング、発汗、ゆっくりとした乾燥を経て、焦げ茶色になり香りを帯びる。バニラ抽出物はバニリンを1〜3.5%含み、4-ヒドロキシベンズアルデヒドとほかのいくつかの小さな分子を伴う。香りは甘く、温かく、バルサム調で、豊かで長く続く。抽出物は濃く焦げ茶色で、布にかすかな染みを残すことがある。
1874年、フェルディナント・ティーマンとヴィルヘルム・ハーマンはバニリンの構造を決定し、松の樹皮に含まれる配糖体コニフェリンからそれをつくる方法を見いだした。合成バニリンによって、バニラを高濃度かつ低コストで使えるようになり、現代のアンバー系統への道が開かれた。19世紀の終わりごろ、ジョルジュ・ド・レールの会社が合成バニリンを土台にしたアンバーベース Ambre 83 を発表した。
オリエンタルからアンバーへ
1925年、ジャック・ゲランは Shalimar を発表した。トップにベルガモット、ベースにバニラとバルサム。Shalimar はそれ以来途切れず生産され、ふつうこの系統の道標とみなされる。明るい柑橘の果皮と重いバニラのベースの対比は、以下のブレンドも使う構造である。
Shalimar より前の1889年、エメ・ゲランは樹脂的なベースの上にラベンダー、クマリン、バニリンを置いた Jicky を発表した。Jicky はフゼアとアンバー系統の境界に位置し、分類によって置き場所が違う。その境界は、バニリンが初めて合成されてから、どれほど早く香水に入ったかを示している。
20世紀の大半、この系統は英語でもフランス語でもオリエンタルと呼ばれた。Shalimar のあとのボトルは、いくつもの方向へそれを広げた。樹脂とスパイスの重い1932年のダナ Tabu、香りつきのバスオイルとして出た1953年のエスティ ローダー Youth Dew、スパイスとバルサムを高濃度にした1977年のイヴ・サンローラン Opium。
2021年、マイケル・エドワーズの Fragrances of the World は、英語のすべての分類で Oriental を Amber に置き換えた。挙げられた理由は、Oriental が植民地的な視点を帯び、匂いを描写していないこと。SFP の分類ページはいまも両方の言葉を残し、系統を Ambrée と名づけ、orientaux と呼ばれることもあると注記している。
名前の変更は、あることをはっきりさせもする。アンバーは素材と色を描く。オリエンタルが描くのは、西洋の目で引かれた地図の上の方角だけだ。新しい言葉のほうが、鼻が感じるものに近い。
バルサム系の樹脂:ミルラとフランキンセンス
ミルラの樹脂は赤褐色の塊に乾く。フランキンセンスはそれより色が淡い。どちらもカンラン科(Burseraceae)に属し、ライブラリのページによれば、どちらもアンバー系のベースに立つ。オポポナックスやスティラックスと並び、煙と樹脂を添える役だ。
ミルラが担うのは苦みの部分である。温かく、樹脂的で、わずかに苦く、バルサミックで、ウッディ。もともと甘いアンバーアコードの中で、その苦みがバニラをくどくさせない。フランキンセンスが担うのは明るさの部分だ。種によって、松脂、レモン、あるいは淡い煙のほうへ傾く。
スティラックスもこのグループの樹脂で、トルコでLiquidambar orientalisの樹皮に傷をつけると流れ出る。主成分はシンナミルシンナメートと3-フェニルプロピルシンナメートで、ゴムのような面をもつ甘い樹脂の香りになる。スティラックスには皮膚感作のリスクがある。IFRAは生のガムの使用を勧めず、加工品のみを低濃度で認めている。ライブラリでは皮膚への最大使用濃度を0.6%としている。
パチョリはベースでこれらの樹脂の隣に立つことが多い。1992年、オリヴィエ・クレスプが手がけたミュグレーの「エンジェル」は、キャラメルに似たエチルマルトールをパチョリの上に置き、のちにプレスがグルマンと呼ぶスタイルを開いた。グルマンという語はSFPの分類表にはない。エンジェル系の香水はふつうF1のスウィート・アンバーに分類される。
Lê Mai のアンバーブレンド
バニラ8滴、ラブダナム6滴、スイートオレンジ4滴、ベンゾイン3滴、ミルラ3滴、パチョリ3滴、フランキンセンス2滴、スティラックス1滴。合計30滴を10 mlのボトルに入れ、調香用アルコールで15%にする。
バニラとラブダナムでブレンドのほぼ半分を占める。古典的なアンブレ・アコードの甘さの軸と樹脂の軸だ。ベンゾインがバニラに近い甘い樹脂で両者をつなぐ。ミルラとパチョリが暗く苦い部分を支える。フランキンセンスと1滴のスティラックスが煙と樹脂を加える。トップのスイートオレンジは、シャリマーに見られるコントラスト、重いベースの上の明るさをつくる。
ベルガモットではなくスイートオレンジを選んだのには、はっきりした理由がある。ライブラリのページによれば、スイートオレンジ油は光毒性がなく、異なる産地の5つのサンプルからベルガプテンは検出されなかった。一方、圧搾のベルガモットにはこれが含まれる。FCFグレードに頼らずに、シトラスの層を残せる。
最初の案にはセイロンシナモンがごくわずかに入っていた。沈香についての記事で計算したとおり、シナモンバーク油の皮膚への最大使用濃度は0.07%で、10 mlのボトルに1滴入れるだけで0.5%になる。だからシナモンは外した。ベンゾインとラブダナムだけで十分に温かい。
ムエットの上では、スイートオレンジが数分開き、すぐに引いていく。続いて樹脂が来る。ラブダナム、ベンゾイン、フランキンセンス。甘く、わずかにスモーキー。数時間後にはバニラとパチョリが残り、ミルラのかすかな苦みが添う。樹脂とバニラはゆっくり揮発するので、この香りはムエットの上に長くとどまる。
| 精油 | 滴数 | ブレンド内の比率 |
|---|---|---|
| バニラ | 8 | 27% |
| ラブダナム | 6 | 20% |
| スイートオレンジ | 4 | 13% |
| ベンゾイン | 3 | 10% |
| ミルラ | 3 | 10% |
| パチョリ | 3 | 10% |
| フランキンセンス | 2 | 7% |
| スティラックス | 1 | 3% |
制約になるのはスティラックスだ。ライブラリのページでは皮膚への最大使用濃度が0.6%で、IFRAは生のガムの使用を勧めていない。15%の濃度で30滴中1滴なら、肌の上では約0.5%になる。加工済みのスティラックスだけを使い、量は増やさないこと。
ベンゾインの上限は2%で、ここでは約1.5%。バニラは約4%、ラブダナムは約3%、スイートオレンジは約2%、ミルラとパチョリは約1.5%、フランキンセンスは約1%。これらのページには皮膚への個別の上限は示されていない。スイートオレンジに光毒性はない。シナモンは0.07%という上限のために外した。
ミルラは妊娠中・授乳中は厳格に禁忌であり、このブレンドはそうした状況には向かない。ベンゾインは過敏な肌や傷んだ肌、2歳未満の子どもには注意が要る。ペルーバルサムに敏感な人はシャムベンゾインにも交差反応を起こすことがある。製品として販売する場合、EUの規則ではバニリンとパチョリをアレルゲンとして表示しなければならない。広く使う前に、肌の小さな範囲で試すこと。
甘いアンバー、乾いたアンバー
同じ樹脂の組み合わせでも、比率が二つあればアンバーも二つになる。バニラとベンゾインを増やせば、焼き菓子に近い丸く甘い香りになる。ラブダナム、ミルラ、フランキンセンスを増やせば、レザーと煙をともなう乾いた香りになる。SFPはこのファミリーを、F1スウィート・アンバーからF6フローラル・フルーティ・アンバーまでの6つのサブファミリーに分けている。F3はバニラのベースに爽やかなシトラスを重ねたもので、1965年のゲランの「アビ・ルージュ」がよく例に挙げられる。
ブレンドを甘い側へ寄せたいなら、バニラを1滴足し、ミルラを1滴減らす。乾いた側へ寄せたいなら、その逆にするか、ラブダナムを1滴足す。スティラックスはすでに上限に近いので増やさない。
このファミリーの素材には、それぞれ固有の規則をもつものが多い。未加工のペルーバルサムはIFRAにより香料原料としての使用が禁止されており、認められるのはその抽出物と蒸留物だけで、それも上限の範囲内に限られる。2023年のEUアレルゲンリストには、バニリン、シナモンバーク油、クローブ油、パチョリ油が加わった。クマリン、シンナマル、オイゲノール、安息香酸ベンジル、ケイ皮酸ベンジルはすでに挙げられていた。
保留剤についての記事では、これらの重い樹脂がなぜ香りをとどめるのかを説明した。アンバー系は、それらがもはや後ろに控えず、香りそのものになる場所である。
石の名で呼ばれる香り。生きた木の樹脂からつくられる。
名前は色を覚えている。鼻は樹脂を覚えている。