甘く乾いた香りをもつ一片の木。家具や工芸品、祭祀の道具に使われる。この木を生む樹は標高900メートルを超える石灰岩や花崗岩の山に育ち、高さ25〜30メートルに達し、ベトナムでは伐採が制限される群に入っている。
石灰岩の山の針葉樹
ポームー(pơ mu)は針葉樹だが、葉は針のようには見えない。成木では長さ2〜5ミリの小さく平たい葉が、扁平な小枝に対になって交互につき、四枚の輪生のように見える。ヒノキ科(Cupressaceae)に属し、イトスギ、テキサスシダー、ヒノキと同じ科である。
学名はFokienia hodginsii。Fokienia属に現存する種は一つしかない。属名は中国・福建省の古いローマ字綴りに由来する。最初の標本はそこで採集され、1908年にホジンズ大尉という人物がヨーロッパへ送った。英語ではFujian cypressとも呼ばれる。
分布は中国南東部からラオス北部、ベトナム北部と中部に及ぶ。ハザン、ソンラ、ホアビン、ゲアン、ハティンなどの省である。ベトナムのポームーは標高900メートルを超える石灰岩や花崗岩の地形に育つ。平野や丘陵の木ではなく、高い山の木だ。
大きな用材樹のなかでは中くらいの高さで、25〜30メートルになる。材は家具や工芸品に珍重され、ラオスの山地の共同体には壁や屋根に使うところもある。ベトナムでは、フートやイエンバイなどの地域のポームー材が工芸品や祭祀の道具に使われていることを、ライブラリが記録している。
ポームー材をそうした用途で珍重させる需要そのものが、この木が希少になった理由でもある。
貴重な木と、出どころの問い
岩山に立つ30メートルの木は、育つのに長い時間がかかり、倒すのには一日しかかからない。ポームーをめぐるあらゆる問いの根は、その差にある。IUCNはFokienia hodginsiiを危急種に指定しており、ベトナムでは生態的に脅かされている種とみなされている。
ライブラリのベトナムの精油のページによれば、ポームーはベトナムの絶滅危惧・貴重・希少な森林植物リストのIIA群に入っている。この群は商業目的の伐採と取引が制限される。ライブラリが保護下にある香木として記録しているのは、ポームーと沈香の二つである。
精油の瓶にとってこれは、香りが問題になる以前に、木の出どころが瓶の合法性を決めるということだ。ポームー精油の国際的な取引名を掲げるサイアムウッドのページは、その要件をはっきり書いている。認証された供給源のみを使うこと。木の書類をもたないポームー精油の瓶は、最初の問いに答えられない瓶である。
出どころの問いはポームーに限らない。日本ではヒノキが1982年から政府によって保護されている。ヒノキ材はいまも市場にあるが、それは自然に倒れた木、1982年以前に伐られた在庫、古い建物から再利用された材から来ている。供給を決めるのは、まだ立っている木ではなく、すでに存在するものだ。
ポームーも似た論理に従う。木が保護されても香木が市場から消えるわけではない。説明のつく供給源へと移るのである。
根と木くずを蒸留する
ポームー精油は、ふつう生きた幹からは採られない。ライブラリの記録では、精油は主に地中に残った根と切り株から、削りくずやおがくずとともに蒸留される。ライブラリの産地データはさらに具体的に述べている。精油は家具工房から出るポームーの削りくずとおがくずから、一年を通して蒸留される。
植物学の資料も、蒸留、とくに根の蒸留から得られる精油が、Siam wood や pemou の名で売られていると記している。根と切り株は、木のなかで最も多く油を含む部分であり、幹がすでに持ち去られたあとに残る部分でもある。
このやり方には実際的な意味がある。おがくずや削りくずは、すでにある産業の副産物であり、それを蒸留するのに新たな伐採は要らない。地中に残った切り株も同じだ。ここでの精油は、材木の取引が残していったものから香りを取り戻す方法である。
だが、残りものだからといって自動的に合法になるわけではない。違法に伐られた木のおがくずは、やはり違法に伐られた木のおがくずだ。出どころの問いは一歩うしろに下がるだけである。油がどこから来たかではなく、その残りものを生んだ木がどこから来たか。
蒸留器は、木片がどの倉庫から来たかを知らない。知っているのは書類だけだ。
ネロリドールと甘い木の香り
ポームー精油はほぼすべてがセスキテルペン類で、ゆっくり揮発する重い分子である。主な二成分はネロリドール約30〜45%とフォキエノール約20〜35%。残りにはα-オイデスモール3〜8%が含まれる。目立った軽いトップの層はない。
ネロリドールはセスキテルペンアルコールで、分子式C₁₅H₂₆O、分子量222.37 g/mol。ライブラリはその香りを、フローラルな木、わずかにグリーン、やわらかく甘く、樹皮を思わせると記す。多くのフローラルアコードのベースノートになる。ネロリドールはカブレウバ材に65〜80%、ニアウリのネロリドールケモタイプに90%超と、高い濃度で含まれる。
フォキエノールは、ポームーそのものの名を冠した分子である。ネロリドールに比べて研究ははるかに少なく、ライブラリにも個別の香りの記述はない。言えるのは、ネロリドールとフォキエノールの比率は試料によって変わり、二つを合わせると精油の半分から五分の四を占めるということだ。
ライブラリはポームー精油を、温かな木、やわらかくフローラル、サンダルウッドに近いと記す。ベトナムの精油のページは「乾いた」「温かい」という言葉を使う。ムエットの上では精油はゆっくり開き、甘く、ネロリドールから来るごく淡いフローラルの線を見せ、そのあと乾いた木のベースを何時間も保つ。
サンダルウッドとの近さは、共通の分子から来るのではない。サンダルウッドはサンタロールを、ポームーはネロリドールとフォキエノールをもつ。二つの異なる化学の道が、並べて置ける二つのやわらかな木の香りにたどり着く。
ヒノキ、チャイニーズシダーと並べたポームー
ヒノキ科のアジアの三本の木が三つの木の精油を生み、それぞれが独自の化学の方向をたどる。並べてみるのが、ポームーの香りの位置を知る最も早い方法だ。
ヒノキ、Chamaecyparis obtusaは日本の木である。ヒノキ ウッドの精油はカジナン系のアルコールをもつ。α-カジノール約20.5%、T-ムウロロール約18.4%、T-カジノール約10.6%、それにγ-カジネンとδ-カジネン。ライブラリはヒノキをウッディの系統に置いている。精油の生産量は限られる。
シダレイトスギ、Cupressus funebris(別名Chamaecyparis funebris)は中国中部と南西部の木で、ベトナム語ではhoàng đàn rủと呼ばれる。ライブラリはその精油をチャイニーズシダーウッドとして記録している。主成分はイソ-α-セドレン約32%とツヨプセン約21.6%で、セドレノールを含む。大量に生産され、ヴァージニアンやテキサンのシダーウッド精油の増量に使われることもある。
三本の木、三組の分子。シダレイトスギはセドレンとツヨプセンの道をたどり、乾いたシダーの香りになる。ヒノキはカジノールの道をたどり、清潔な木の香りになる。ポームーはネロリドールとフォキエノールの道をたどり、フローラルの線をもつ、より甘い木になる。三つのうち、ポームーはシダーから最も遠い。
ウッディの系統のなかでは、ポームーはやわらかい側、シダーよりサンダルウッドに近い位置にくる。植物の科が同じでも、香りの系統が同じとは限らない。
小さな瓶の中の香木
ポームー精油の瓶は手のひらより小さいが、一続きの連なりを丸ごと運んでいる。標高900メートルを超える岩山、ゆっくり育つ木、保護のリスト、材木の工房、おがくずの山、蒸留器。
安全性について、ライブラリはポームー精油を皮膚感作のリスクが低いものとして記録し、妊娠中についての明確なデータはないとしている。主成分のネロリドールはライブラリで懸念が低いと評価され、IFRAにもEUにも個別の上限はない。ポームー精油には皮膚への最大使用濃度の個別の数値もない。データがないことは空白であって、保証ではない。
精油は遮光瓶に入れ、しっかり栓をして涼しい場所で保管する。セスキテルペン類はゆっくり揮発するので、ポームー精油の香りは一日ではほとんど変わらない。それでも長く開けたままの瓶は、ほかの精油と同じように空気の影響を受ける。
調香において、ライブラリはポームー精油をニッチな香水の素材として記録している。チャイニーズシダーウッドの精油のように大量に使われる素材ではない。限られた供給と出どころの問いが、それをその位置にとどめている。
ポームーの甘い木の香りは、この話のなかで最も語りやすい部分だ。難しいのは、木と一緒に旅する紙のほうにある。
属のなかのただ一つの種、標高900メートルを超える山に。
香りはネロリドールとフォキエノールから。合法性は書類から。
どの瓶も、住所をもつ一片の木から始まる。